ソシオニクスでは、各タイプだけでなく、タイプ間の関係についても分析がされています。今回は、同じタイプ同士の関係である同一関係Identityについて紹介します。
「同一関係」とは?
同一関係Identityとは、ソシオニクスにおけるタイプ間の関係の1つで、同じタイプ同士であることら、かなり急速・簡単に仲良くなれる一方で、補い合うことができない関係です。ソシオニクス研究者のV. Gulenkoは、この同一関係を「完全に理解できる、でも助けられない」関係としています(Гуманитарная соционика)。
なお”identity”は「同一」と訳しましたが、数学用語では「恒等」と呼ぶそうです。高校数学でどんなときでもイコールになる式のことを「恒等式」とならった気がしますが、まさにどんなときでもイコールな関係です。
同一関係の16つのペア
同一関係になるタイプの組み合わせは16つあります。それは次の表の通りです。
※各タイプの記事一覧にとびます。
同一関係のバリエーション
上の16つのペアはすべて、同じ同一関係です。どのペアも、同じ同一関係としての特徴を持っています。しかし同じ同一関係でも、それぞれのペアには異なる部分もあります。それは、ペアごとに異なるタイプから組み合わされているからです。
同一関係の構造~モデルA~
ソシオニクスのタイプ間の関係は、2つのモデルAの要素を見比べ、機能がどう対応しているかを見れば判別することができます。
同一関係の2つのモデルAの間には、次のような機能の対応関係があります(丸数字は機能の番号。カッコ内はEII&EIIペアの例)。
1人目(例:EII) | 2人目(例:EII) |
---|---|
①主導する機能(Fi) | ①主導する機能(Fi) |
②創造する機能(Ne) | ②創造する機能(Ne) |
③規範の機能(Ti) | ③規範の機能(Ti) |
④脆弱な機能(Se) | ④脆弱な機能(Se) |
⑤暗示される機能(Te) | ⑤暗示される機能(Te) |
⑥動員する機能(Si) | ⑥動員する機能(Si) |
⑦無視された機能(Fe) | ⑦無視された機能(Fe) |
⑧証明する機能(Ni) | ⑧証明する機能(Ni) |
同一関係は対称な関係であり、それ以前に同じタイプからなる関係なので、1人目と2人目を入れ替えても何も変わりません。
同一関係の基本的な特徴
さて、次からは同一関係の基本的な特徴を紹介していきます。
今回は、EIIひよことEIIひよこの同一関係ペアに来てもらいました。※セリフはあくまでもイメージです。
よろしくね!
よろしくね!
同一関係は、「退屈」に打ち勝つ努力が必要!
ソシオニクス研究者Gulenkoの整理によれば、同一関係は「退屈さ」が特徴的です。
「退屈さ」とは、文字通り、関係がマンネリなものになりがちということです。良好な関係を維持するには、変化を取り入れ続ける努力が必要になります。
同一関係の進展を見ていきましょう。同一関係は、まるで自分を見ているかのような関係です。そのため、すぐに相手を理解して仲良くなります。
同一関係は、同じ目で世界を見ています。つまり同じ方法で入ってくる情報を理解し、ほとんど同じ結論に達し、そして同じ問題に直面するのです。これがわかると、同一関係は相手に同情を覚えます。この状況なら自分も同じことをしただろうと感じるので、相手を助けたり擁護したりしたくなるのです。
V. Gulenko(2019) “Psychological Types: Why Are People So Different?” pp. 322-323
世界の捉え方も考え方も自分とそっくりだからこそ、相手の情熱には激しく共感するし、相手の悩みや苦しみは痛いほどにわかります。同情を覚え、「なんとか助け合えないか?」「なんとか協力し合えないか?」と考えます。
EIIさんのこと、どうしても放っておけなくて。
しかし残念なことに、同一関係では相手を助けることができません。なぜなら自分も全く同じようなことで悩んでいて、誰かに助けてほしいと思っているからです。
また、同一関係は対称な関係ですから、相手も自分を助けることができません。相手の話は大体予想がついてしまいます。結局、同一関係間では「傷のなめ合い」以上のことはできそうもないのです。そんな無益な関係を続ければ、はじめの「同情心」も消えていき、相手のことを見下し始めることになるでしょう。
夢ばっかり語られてもつまらないな…。
こうして関係は一気に退屈なものになります。が、これを放置すれば関係は悪化する一方です。
目に見える楽しみがなければ、一方が関係の退屈さを壊そうとし、相手に相手らしくない行動をとらせることになるでしょう。(…)人為的にバランスを崩すことができなければ、不和とその後の利害の衝突は避けられません。
同上, p. 322
関係を維持するためには、このマンネリを解消しなければなりません。自分が頑張って自分らしくないことをやるか、相手に相手らしくないことをやらせるしか方法はありません。ありのままの2人では、にっちもさっちもいかないためです。
データによれば、1.5倍の効果があるみたいだよ!(慣れないけど頑張って調べたよ…!)
同一関係は、だらだらと「議論」しがち!
またGulenkoによれば、同一関係は「議論」が特徴的です。
「議論」とは、相手のやり方を尊重しつつも、お互いに意見を戦わせようとすることを意味しています。
同一関係は、同じような意見を持つ人同士の関係です。そのため同一関係の議論は、どちらの意見がより上かを競うものになりがちです。
議論の間は、知的な論争になりやすく、お互いに自分のほうが知的に優れていることを証明しようとします。
同上, pp. 323-324
同一関係ではだらだらと議論が続くわりに、「何を議論するにも、自分で同じ結論に達することができると事前にわか」ってしまい、面白くありません。となれば、相手と同じ意見であっても、もっと深くて洗練された意見を出そうとするのも、無理ないことだと思います。だってそれ以外に価値ある話ができそうもないからです。
ただしここには例外があります。
例外は、両者の間で経験や知識に大きな違いがある場合です。この場合は、お互いに大いに興味を持ち、強く求めるかもしれません。なぜなら手っ取り早く効果的に学べる、つまり新しい情報を手に入れられるからです。
同上, p. 323
こういう場合は、相手の話を楽しく聞けます。同じような見方・考え方をする2人ですから、相手が面白がっていることは自分にとっても面白いし、また、内容もすんなり理解できるからです。
私、最近こういうセラピーがあったらいいなと思ってて~。
…!!実は自分も、似たことを芸術でできないのかなって考えてた!
またこの特徴もあいまって、同一関係は教育向きと言われます。同一関係の師匠がいると、その教えや技を完全にマスターすることができます。
それ以外にも同一関係の相手から学ぶことは大いにあります。先に言ったように、同一関係は、直接話をしても得るものは少ないのですが、客観的に自分を見つめるのに役立つ関係です。
同一関係は、教育という点では大いに価値があります。自分を外から見て、自分の強みと弱みを客観的に判断できるようになるからです。自分を外から見るのはいつも楽しいことではありません。テープに撮った自分の声だって、再生すると自分が想像していたより悪く思えますよね。この関係は、もし注意を払う気があるならば、適切に自己評価する力を発達させるのに役立ちます。
同上
同一関係の師匠は、最高のロールモデルになります。自分が伸ばしていくべき強みがわかるはずです。一方で同一関係では、自分の弱みにも直面させられます。同一関係の相手の失敗は、自分事のようで恥ずかしくて見ていられないかもしれません。
もしかして…私もこんなに決断力ないのかな…?
同一関係へのアドバイス
どんな関係であれ、関係を良いものにする努力は欠かせません。以下では、同一関係をもっとよくするアドバイスを紹介します。
マンネリを打破!新しいことをたくさんしよう!
1つ目のアドバイスは、新しいことをたくさんしてマンネリを打破することです。
先にも説明したとおり、同一関係は退屈・マンネリ化しやすいです。
コミュニケーションは急速に退屈なものになります。相手から新しい情報を得られないと、すぐにこの関係を無益だとみなします。相手に情報価値がなければ鈍くてつまらない人に見えます。時が経つとともに、中立的あるいは冷えきった関係のどちらかが築かれます。
同上
新しい情報が得られない以上、関係が冷え切ってしまうことは避けられません。同一関係では、相手から「得るものがない」と思われたら終わりです。
相手とうまくやっていきたいと思うなら、お互いがお互いにとって有益な情報源になる必要があります。新しいことに挑戦し、面白かったこと、有益だと思ったこと等、積極的に共有しましょう。
が、いちばん手取り早いのは、一緒にどこかへでかけたり、共通の知人を含めて遊んだりすることです。同一関係が一緒に同じ道を歩けば、きっと同じ店、同じ花、同じ景色に興味を示します。そうなれば話題は尽きません。博物館や美術館、映画などは特にオススメだそうです。
さっきの映画、中盤で雨降ってきたとこが好きだった!
わかる!あのシーンのヒロインのさ…!!
わかるー!!!!
相手に期待しない!現実を見つめて役割を分担しよう!
2つ目のアドバイスは、相手に期待せず、現実的な分担をすることです。
同一関係は、不得意なこと・他人に頼りたいことが同じです。そのため、自分が「相手がやってくれたらいいのにな」と期待を寄せているとき、相手もまた自分にそれを期待しています。
何をすべきか教えてくれたらいいのに…。
何をすべきか教えてくれたらいいのに…。
上の2人のEIIは、相手に「頼もしい上司」的な役割を期待しています。しかし相手がこの期待に応えてくれることはありません。
同一関係では、相手は自分が期待していることをやってくれることはありません。そのため失望は覚悟の上で、あなたの計画をもっと現実的なものに調節しましょう。
同上, p. 324
同一関係においては「相手がなんとかしてくれるだろう」という考えは捨て去る必要があります。自分にできないことは、相手もできないと思ったほうがよいです。
同一関係同士で何か一緒にやるなら、事前にきちんと役割を分担することはマストです。ありのままでは、同じことをやり同じことを避けるようになってしまうからです。見つかりもしない第三者の助けをあてにしてはいけません。2人の関係に向き合い、現実的な分担をしましょう。嫌な仕事も引き受けないといけなくなるでしょう。計画は下方修正しなければ実現できなさそうです。相手の力不足を責めたくなるかもしれません。が、それはお互い様です。できることを1つ1つやっていきましょう。
自分が頑張るしかないね…。
傲慢さはNG!人の振り見て我が振り直せ!
3つ目のアドバイスは、冷静に自分を見つめ、相手と対等に接することです。
先にも言ったように同一関係では、自分の期待通りに相手が動いてくれることはなく、相手に対してたびたび信頼できなさを感じます。
この関係の不快な面は、相手が自分へ向ける態度に絶えず信頼できなさを経験することです。こうした疑念があったらすぐに、自分の感情をわきに置き、何が起こったのかを解明するため論理的に話すことが大切です。
同上
相手の行動言動に「自分を軽く見ているのか?」と思い、腹が立つかもしれません。しかしそれはお互い様だと思った方がいいです。同一関係ほど「人の振り見て我が振り直せ」がふさわしい関係はありません。一旦「自分こそ相手を見下していなかったか?」と自問して落ち着き、疑念を解消するため話し合いをしましょう。その際も傲慢になってはいけません。むしろユーモアをまじえて、相手から納得できる説明を引き出せるように気を遣いましょう。
バカにして話を聞いていなかったかもしれない…。気を付けよう…。