ソシオニクスでは、各タイプだけでなく、タイプ間の関係についても分析がされています。今回は、誤解が生じやすくもっとも難しいといわれる衝突関係Conflictについて紹介します。
「衝突関係」とは?
衝突関係Conflictとは、ソシオニクスにおけるタイプ間の関係の1つで、誤解が生じやすくもっとも難しいと言われる関係です。
Gulenkoは、この衝突関係を「水面下で大きくなる衝突」の関係としています(Гуманитарная соционика)。衝突は、常に目に見える形で起こるとは限らないのがポイントです。
衝突関係の8つのペア
衝突関係になるタイプの組み合わせは8つあります。それは次の表の通りです。
※各タイプの記事一覧にとびます。
衝突関係のバリエーション
上の8つのペアはすべて、同じ衝突関係です。どのペアも、同じ衝突関係としての特徴を持っています。しかし同じ衝突関係でも、それぞれのペアには異なる部分もあります。それは、各ペアが異なるタイプの組み合わせだからです。
衝突関係の構造~モデルA~
ソシオニクスのタイプ間の関係は、2つのモデルAの要素を見比べ、機能がどう対応しているかを見れば判別することができます。
衝突関係の2つのモデルAの間には、次のような機能の対応関係があります(丸数字は機能の番号。カッコ内はSEI&LIEペアの例)。
1人目(例:SEI) | 2人目(例:LIE) |
---|---|
①主導する機能(Si) | ④脆弱な機能(Si) |
②創造する機能(Fe) | ③規範の機能(Fe) |
③規範の機能(Ni) | ②創造する機能(Ni) |
④脆弱な機能(Te) | ①主導する機能(Te) |
⑤暗示される機能(Ne) | ⑧証明する機能(Ne) |
⑥動員する機能(Ti) | ⑦無視された機能(Ti) |
⑦無視された機能(Se) | ⑥動員する機能(Se) |
⑧証明する機能(Fi) | ⑤暗示される機能(Fi) |
衝突関係は対称な関係です。なので、1人目と2人目はひっくり返してもOKです。上の例では1人目はSEI、2人目はLIEになっていますが、1人目をLIE、2人目をSEIにしても同じです。
衝突関係の基本的な特徴
さて、次からは衝突関係の基本的な特徴を紹介していきます。
今回は、SEIひよことLIEひよこの衝突関係ペアに来てもらいました。
よろしくね~。
あ、よろしく!
※ひよこちゃんのセリフはイメージです。
衝突関係は、「誤解」だらけ…!
ソシオニクス研究者Gulenkoの整理によれば、衝突関係は「誤解」が特徴的です。
「誤解」とは、お互いへの誤解によって関係のバランスが崩れやすいことを意味しています。
衝突関係は、まったく異なる考え方をする2人の関係です。はじめはとても魅力的ですが、距離が縮まると、考え方の違いのせいで、相手の行動の何もかもが、理解できないものとしてうつるようになります。
距離を縮めて一緒に活動しようとすると、あなたは相手の行動にだんだん混乱し始めます。このような不一致の結果、イライラがたまり、早いところ距離を置かなければ衝突が勃発するかもしれません。
V. Gulenko(2019) “Psychological Types: Why Are People So Different?”, p. 332
お互いの考え方は完全に食い違っており、相手にどんどん不信感がたまっていきます。
SEI妻とLIE夫の若い夫婦の例を挙げてみます。LIE夫はバリバリのビジネスマンで、休日もお構いなしに、家事と育児はSEI妻に任せ、どこかに行ってしまいます。ある日の夜、LIE夫が帰宅したのをSEI妻がイライラしながら迎えます。
こんな遅くまで仕事? 誰とどこで何をしてるの?
ですがLIE夫は、SEI妻の質問に答えようとはしません。
…ごめん。今度連れて行くから。
SEI妻は、そんなLIE夫の反応を見ていっそうイライラ…。
衝突関係では、大事なものが全く異なります。SEI妻は、夫婦の間の報告をかなり重視しています。なので、会話を避けるLIE夫のことは「何か嘘をついている」と疑い、恐れます。
「今度連れて行く」って、一度も連れて行ってもらったことない…。もしかして全部嘘? 私は騙されてるの…?
しかしLIE夫からすれば、SEI妻の報告の要求は「尋問」のようで怖いし、非生産的な時間と感じます。LIE夫が謝ったのは、罪悪感もありますが、それ以上に不快な会話から逃れたかったのです。
今日あったことを報告しあって何の意味が? 思い出すのも言葉にするのも疲れるのに…。もしかして全部いやがらせ?
こうしてお互いに相手に不信感を募らせていきます。もし相手が自分にこうした不信感を向けているのを知れば、きっと「誤解だよ!」と弁解せずにはいられないでしょう。
いつも相手には何かを証明したい、はっきりさせたい、あるいはおしまいにしたいと思うでしょう。
同上, p. 333
しかしここで強調しておきたいのは、「誤解」とは、相対的なものだということ。この世のあらゆる衝突と同じく、どちらの側も「自分は正しい理解をしていて、相手は単に誤解しているだけだ」と信じています。
「君が誤解してる」「いや誤解してるのは君の方だ」「いや君だ」…。衝突関係においては、たえず「正しい理解」と「誤解」が入れ替わります。
この「正しい理解」側をめぐる覇権争いは、止むことがありません。それはお互いが「単に自分の努力が足りず、相手から認めてもらえていないだけだ」と思ってしまうから。なんとしてでもわかってもらいたいと意地になり、自分の意見を押し付け合ってしまうから。
もう少し努力すれば、わかってくれるだろう。相手から好かれたいという無意識の欲望に取り憑かれるのです。しかしこの試みは、深淵の際を歩くようなものでしかありません。転落したり、不毛で消耗する口論に巻き込まれたりする危険が、常にあります。
同上, p. 332
意見は食い違い、口論は激化するばかり。それでもお互いが、相手と一緒にいることにこだわり続けます。
その結果どうなるか。はじめは相手の誤解をとくつもりで近づいたのに、いつしか「自分が間違っているのかもしれない」と思うようになります。
SEI妻は、理想の妻像(※双対ESI)に自分を寄せていくしかないと考えるようになりました。
愛され妻にならなきゃ。家事も育児も仕事も見返りを求めたらいけない。毎日働く夫のために頑張らなきゃ。文句言わない。しゃべりかけない。我慢だ我慢。我慢我慢我慢…。
しかしこれは自滅行為と言わざるを得ません。他人のための我慢って続かないです。むしろ我慢すればするほど不満が募って、どんどん心が濁っていきます。
「愛され妻」になると誓ったSEI妻は、我慢を重ねた結果、逆に醜悪さを増していくことになりました。
アアアアア!!!!タッパーの文字が読めない!?その卵焼きは子どものお弁当用!!テメーの夕食はまだ!!役立たず!!【ピーー】!!【ピーーー】!!!
ハァ……。
私、こんなに怖い顔だったかな……。
相手の理想に応えようとするあまり、元々自分が何を考えていて、何を感じていて、何を望んでいたのかさえわからなくなります。某魔法少女アニメだったらグリーフシードが生じるのがここですね。このまま進めば、最悪の結末が待っていることは想像に難くないでしょう……。
それにしても、なんでこんな難しそうな関係の2人が結婚にまで至ってしまうのでしょうか? それは次に説明する衝突関係の最初の印象の良さが関係しています。
衝突関係は、「手厚さ」に期待が高まる!
Gulenkoによれば、衝突関係は、「手厚さ」も特徴的です。
「手厚さ」とは、相手のやり方を尊重し、話し合いによって合意できることを意味します。
衝突関係の第一印象は、たいていとてつもなく良いです。
衝突関係の相手は、彼があなたに向ける馴染みない印象によってあなたの注意をすぐに引き込みます。もしあなたたちの活動範囲が離れているなら、コミュニケーションは全体的に礼儀正しく好意的なものになります。
同上
衝突関係の相手は、自分にない魅力を持っている人です。それでいて決して驕り高ぶっておらず、とても感じが良いのです。そんな相手のすべてに好感をおぼえるかもしれません。
先ほどのSEI妻とLIE夫の夫婦も、出会ったときはお互いに惹かれました。
SEIさん、優しいし真面目だしいい人だなぁ…。
LIEさん、気さくだし頭良いしすごい人だなぁ…。
そして、距離が離れているうちは、お互いに「手厚い」サービスをほどこし合うことができるように見えます。お互いの短所を長所で補える、良い「支え合い」ができそうに思えます。それはまるで「救世主-メシア-の出現」という本当の奇跡のように見えます。LIE夫も、SEI妻のことは本気で救世主だと思いました。
SEIさんから熱烈アプローチを受けてるナウ。SEIさんが妻なら、僕が何やらかしても優しく受け止めてくれそう。結婚したい。
この段階では、一体これのどこが「衝突関係」なの!? と思うかもしれません。実際の友人関係を振り返っても、ピンと来ない方は多いと思います。それは当然で、衝突関係はいつも衝突するとは限りません。たとえばR. K. Sedihは、こうした理由から「衝突関係」という名前を不適切だと考えているくらいです。
これ(この関係を「衝突関係」と呼ぶこと)が正しいことはめったになく、あるとしても家庭的なレベルにおいて、その関係における当事者が未熟でありかつ双対化していないときだけです。
Седых Р.К. Информационный психоанализ. Соционика как метапсихология [Текст] /
つまり距離が縮まる前は、衝突はほとんど起こらないんです。さらに距離が縮まったとしても、お互いの心に余裕があるようなときは、衝突は起こりません。
ただ、相手を救世主のように考えることは、衝突関係における衝突のリスクを大いに高めることになるでしょう。なぜなら衝突関係の相手は、救世主ではなく人間で、いうなればラーメン屋みたいなもんだからです。
相手は救世主ではなくラーメン屋です。なのでもちろん、相手が腹ペコな自分に与えてくれるのも救済ではありません。しょうゆラーメンです。
つまり、相手の与えてくれる手助けは、相手の商品です。大事な財産です。相手を救世主と考えてしまえば、それがわからなくなります。相手のことは、当然タダでラーメンをお恵みくださるだろう(だって救世主なんだから!)と考えてしまいます。
しかし衝突関係の相手はラーメン屋であって、救世主ではありません。対価は必ずあとから請求されるでしょう。それがたとえ支払可能額を超えていようが、自分の本当に求めていたものではなかろうが、です。
そう。いただいたラーメンは、申し訳ないけどめちゃくちゃ不味かった。1口食べただけで吐きそうになるくらいムリでした。でも頼んだのは自分。対価はしっかり請求されます。そしてその対価のたけぇのなんの。
このたとえ話、わかりにくかったかな?
まぁ、夫婦の話に戻りましょう。LIE夫は、SEI妻に料理は任せようと考えていました。が、SEI妻の料理は、あまりに手が込みすぎていて作るのにも食べるのにも時間がかかります。1分1秒も惜しいビジネスマンのLIE夫的には「ありがた迷惑」でした。…が、SEI妻を怒らせるのが怖く、毎晩、SEI妻とまったり夕食タイムを過ごすことを余儀なくされました。これはLIE夫からすれば恐ろしくたけぇ対価でした。
……それでね、ワイン煮込みはじめて作ったんだ……。ねぇ。お口に合わなかったかなぁ。
いや、食べてるじゃん…(仕事に戻りたいな…)。
こうして衝突関係は、苦しい二者択一を迫られます。高すぎる対価を相手に支払い続けるか、相手から「対価を払え」と追いかけまわされるか。SEI妻とのほほんと過ごしてビジネスチャンスを見送るか、会話を遮って仕事に戻りSEI妻に般若の形相で追いかけられるか。
こうなるともう、自分が我慢するか、相手に我慢させるかしかなくなってきます。そして先にも言った通り、他人のための我慢は続きません。ので、必然的に相手にも我慢をしいることになります。
ひどい悪夢を見た…。昨日の大喧嘩のせいだ。さすがに仕事したくて妻をスルーしたら叫びながら部屋に押し入ってきた。怖かった。怖くて……思わず手が出て……ますます泣き叫んで……思い出したくない。
あんなことしたくなかった。
……この夫婦は長いこと激しく揉めまくり、離婚訴訟を経て別れました。お互いがもう少し大人になって、相手を思いやれればもう少し違っていたのか。しかし、覆水盆に返らず。こうなった今できることは、自分の傷を癒し、失敗から学び、前に進むことだけです。
衝突関係へのアドバイス
どんな関係であれ、関係を良いものにする努力は欠かせません。最後に、衝突関係をもっとよくするアドバイスを紹介します。
ダークなのはNG!明るくおもてなしをしよう。
1つ目のアドバイスは、明るくおもてなしをすることです。
衝突関係は、距離が遠いときほど魅力的で楽しく、近づくほど衝突が起こりやすくなります。
どんなタイプも、距離が縮まるほどに、普段人前で抑えているワガママや甘えが出てしまいやすいものだと思います。ですが、特に衝突関係ではそういうワガママや甘えは一番危険です。「わかってほしい」みたいな気持ちはぐっと抑えて、お客さんをおもてなしするくらいビジネスライクな感覚で、終始ていねいに接し続けましょう。
ユーモアやジョークを交えてお互いに励まし合うのがおすすめですが、ジョークは慎重に言い、決して皮肉のようにならないようにすることを覚えておきましょう。
V. Gulenko(2019) “Psychological Types: Why Are People So Different?”, p. 333
お互いが関係の明るい部分に目を向けていられることが一番大事なことです。「楽しいね」「あのとき笑ったよね」「話せてよかったです」など、礼儀正しい、ポジティブな言葉を伝え合うようにしましょう。
LIEさん今日は楽しかったし勉強になりました!またゼミでよろしくね!
2人の間で「契約」を交わし、忠実に守ろう!
2つ目のアドバイスは、2人の間で「契約」を交わし、忠実に守ることです。
1つ目のアドバイスも同様ですが、衝突関係は「仕事上のお付き合い」くらい割り切ってしまったほうがうまくいきやすいかもしれません。もし2人が近い距離で何か共同作業をする場合は、事前に2人の間できちんと「契約」を交わし、それに基づいて行動しましょう。
衝突関係の相手と近い距離で関わるときは、自分たちの間での役割分担を厳密に行い、確固とした計画に基づいてそれを遂行しましょう。合理化することで、内側の緊張を抑えて、蓄積されたエネルギーを家事や外でのレジャーなどの有用なことへ向けることができるようになるでしょう。
同上
幸い、お互いの得意分野はくっきり分かれています。それに応じて役割を細かく分担してしまいましょう。あとはお互いがいつまでにどれくらいやるか等しっかり計画を立て、それぞれが自分の持ち場の仕事を全うできるようにしましょう。
不満や嫌悪感を抑えるため、義務感や強い意志を持ち、相手に忠実でありましょう。
同上, p. 334
当然のことですが、約束を破ったり、やることをやらなかったり、嘘をついたりしてはいけません。衝突関係においてそれは特に重大な「契約不履行」として扱われると胸に刻んでおくべきです。
また、先ほどのラーメン屋の例でも言いましたが、タダで良くしてもらえることを期待するのもやめましょう。利己心から、自分の都合に相手を引きずりこんではいけません。もしうっかり引きずり込んでしまったら、1つ目のアドバイスの通り、礼儀正しく常識的にビジネスライクにお礼を返して、健全な距離感を取り返しましょう。
SEIくんゼミの仕事引き受けてくれて助かった。いいよって言われたけど、やっぱりお礼しておこう。
他人を巻き込まず、どうしようもないときはただ距離を置く!
3つ目のアドバイスは、他人を巻き込まず、ただ距離を置くことです。
衝突関係は、二者関係に引きずり込まれ、外部から孤立しやすいです。だからといって、へたに第三者を介入させようとしてもいけません。第三者は多くの場合、余計に衝突を激化させるばかりです。
緊張が限界点まで達したらすぐに、相手のテリトリーから離れましょう。例えば、別の部屋に行くなど。
同上, p. 333
衝突関係は、もうとにかく距離感が大事です。長いこと近い距離にいると緊張感が高まってきます。もし緊張感が高まってきたら、たとえるなら頭の中で映画『ジョーズ』のあの恐ろしいBGM(シャーク・ミュージック)が流れ始めたら、相手のサメが顔を出さないうちに、ビジネスライクに距離をあけましょう。そうすればBGMはおさまって、また関われるかもしれません。
すでに衝突が進行していて、相手のことを思い出すだけで頭の中で恐ろしいBGMが流れ始めるような場合。今はまだ戻るときじゃないということです。いつかまた落ち着いて語れるようになる日が来るかもしれない。だからせめてそれまでは、自分を大切に。
今すれ違ったのLIE元夫だった。あの頃には戻りたくないけど、勉強だったよね…。それにしてもだいぶ老けてたな…。離婚して20年だもんなぁ…。