ソシオニクスでは、各タイプだけでなく、タイプ間の関係についても分析がされています。今回は、ソシオニクスにおいてもっとも理想的な関係といわれる双対関係Dualityについて紹介します。
「双対関係」とは?
双対関係Dualityとは、ソシオニクスにおけるタイプ間の関係の1つで、「理想的な仕方でフィットし合う2タイプの関係」(Duality – Wikisocion)です。
Gulenkoはこの双対関係に「心理学的な補完」(Гуманитарная соционика)というキャッチフレーズをつけています。うまく訳すのが難しいですが、双対関係のお相手(=双対)がいると完全体になれる、そんなイメージだと思います。
さらにこの双対関係はソシオニクスの基礎になっており、ソシオニクスを語る上では欠かせない重要な関係です。
双対関係の8つのペア
双対関係になるタイプの組み合わせは8つあります。それは次の表の通りです。
※各タイプの記事一覧にとびます。
双対関係のバリエーション
上の8つのペアはすべて、同じ双対関係です。どのペアも、同じ双対関係としての特徴を持っています。しかし同じ双対関係でも、それぞれのペアには異なる部分もあります。それは、各ペアが異なるタイプの組み合わせだからです。
特に恋愛関係にある双対関係は、それが顕著です。
ある双対カップルは、いつも喧嘩しているように見えるかもしれません。が、実際には感情を表現し合っているだけでどちらも個人的なこととは受け取っておらず、鬱憤を晴らしたりふざけて怒ったりするのは2人が開発中の「ゲーム」の一部なのかもしれないのです。別の双対カップルは、あなたが2人のことをよく知るまでは、ビジネスライクに、人前ではお互いに無関心にさえ見えるかもしれません。
Duality – Wikisocion
第三者から見れば、双対関係のペアはかなり個性的です。だから「あなたたち本当に双対なの?」と疑ってしまうようなこともあるかもしれません。
双対関係の構造~モデルA~
ソシオニクスのタイプ間の関係は、2つのモデルAの要素を見比べ、機能がどう対応しているかを見れば判別することができます。
双対関係の2つのモデルAの間には、次のような機能の対応関係があります(丸数字は機能の番号。カッコ内はILE&SEIペアの例)。
双対関係は対称な関係です。なので、1人目と2人目はひっくり返してもOKです。上の例では1人目はILE、2人目はSEIになっていますが、1人目をSEI、2人目をILEにしても同じです。
双対関係の基本的な特徴
さて、次からは双対関係の基本的な特徴を紹介していきます。
以下では例として、ILEひよことSEIひよこの双対関係ペアに登場してもらいます。※セリフはあくまでもイメージです。
よろしく頼むよ!
よろしくね~。
双対関係は、一緒にいると「快適」!
ソシオニクス研究者V.Gulenkoの整理によれば、双対関係は「快適さ」が特徴です。
「快適さ」とは、特に努力しなくても安定したコミュニケーションをとれることを意味します。
行動面では、人は相手を落ち着かせ、心がフワッと軽くなる感じ(a feeling of psychological “weightlessness”)を作り出します。自分の行動を制限する必要がなく、ありのままでいられます。
V. Gulenko(2019) “Psychological Types: Why Are People So Different?”, p. 318
双対関係では自然に話すことができ、緊張したり退屈したりすることがありません。なお、時間が経ってもこの特徴は変わらず、いつでもありのままでいられます。
そのため、双対関係の恋愛はとてものびのびしたものになります。初めの頃は、他のどんな関係の恋愛もそれなりに楽しいでしょう。でも双対関係では、本当の弱い自分を、安心してさらけ出すことができるという意味で、他の関係よりもリラックスできます。
恋愛に発展すると、2人はただちにステレオタイプな恋愛から、2人にとって本当に自然で嘘偽りのない振る舞いへと移行します。2人はこの関係を通じて「自分を発見する」のだとわかるかもしれません。
Duality – Wikisocion
「恋愛」に対して悪いイメージ(疲れる、メンドクサイetc)を持っている人は、双対関係の恋愛を経験すると、あまりの居心地の良さにびっくりすることがあるかもしれません。双対関係の恋愛においては、「恋人らしさ」や「男(女)らしさ」に縛られず、「自分らしく」いることができます。
ILEさんは寛容で、一緒にいてすごく楽だな~。
双対関係は、お互いを「手厚く」サポート!
他にもGulenkoは、双対関係の特徴として「手厚さ」を挙げています。
「手厚さ」とは、相手のやり方を尊重し、話し合いによって合意できることを意味します。
どんな活動であっても責任がほとんど自動的に割り振られ、そのおかげで新たな活動のためにたくさんのエネルギーを残しておけます。意見の不一致や口論は、妥協つまり中間点を探ることによってではなく、協力によって解決します。たとえば、自分の意見のニーズとは対立しないような相手の真のニーズを見つけ、それを満たしてやります。
V. Gulenko(2019) “Psychological Types: Why Are People So Different?”, p. 318
双対関係では、得意分野が全く異なるため、自然に役割が分担されます。その場合も口出しはせず、相手のやり方に任せます。衝突はほとんどありません。仮にあったとしても痛みなく解決できます。話し合えば、お互いが納得できる解決策を見つけられるので、自分のことも相手のことも肯定することができます。
職場や家庭など何らかのチームに双対がいると、人生はイージーモードになることでしょう。自分がやりたくない作業を、双対は難なく助けてくれるからです。
家のことは大体SEIさんがやってくれるから、すごく助かるよ!
双対関係は、自己実現を促す!
一緒にいると「快適」で、「手厚く」サポートし合える――こうした喜ばしい特徴のために、双対関係はお互いの自己実現を促すと言われます。
自己実現というのは、「自分らしさの開花」と言い換えたらわかりやすいでしょうか。双対関係の中では、自分の能力を発揮できるようになるのです。
それが一体なぜ可能になるのかは、本当に必要なことだけを選べるようになるから、にほかなりません。
2人は外部から隔絶していて接近不可能のように見えますが、自分の人生に不要な苛立ちやストレスを取り除く手助けをし合った結果、自分の取り組む活動や関わる人をちゃんと選べるようになっただけのことなのです。このような条件は自己実現を促すのですが、自己実現には、自分にとって重要なことだけにエネルギーを集中させ、その他の大部分を無視するのが必要なことなのです。
Duality – Wikisocion
たとえば双対関係の相手と付き合い始めると、「あいつは恋人ができてから人付き合いが悪くなったな」なんて言われるようになるかもしれません。しかしこれは双対関係が快適なために、重要な人間関係か否かを見分けられるようになり、また、どうでもいい人間関係にしがみつかなくてよくなっただけのことです。
また、双対関係は自分の苦手なことを肩代わりしてくれるので、自分が本当にしたいことだけに集中できます。その分、自分が本当にしたいことをとことん極められるようになります。生き残るためにやるしかなかったしんどいこと、やりたいと思い込んでいただけの退屈なこと、体裁のためだけにやっていた薄っぺらいこと――全部、やらなくてよくなります。
毎日を楽しく過ごすことが、自分の本当の願いだったんだな…。
双対関係は、その価値に気づきにくい!
このように見てみると、双対関係はかなり理想的な関係です。そのせいで、双対関係のことを「赤い糸で結ばれている運命の出会い」のように考えている人も多いかもしれません。双対関係は出会った瞬間にビビッと来て、すぐに恋愛に発展する…そんなふうに夢を見ている人もいるでしょう。
しかし、現実には双対関係にも残念な点があります。双対は、ビビッと来る運命の相手でもなんでもありません。むしろ、多くの双対関係は、その価値に気づかないままスルーしてしまうものです。
まず、多くの双対関係は、出会ったことにすら気づきません。あまりにも自然にコミュニケーションがとれるので、はじめは良くも悪くも衝撃がないのです。
双対とコミュニケーションをしても、最初は大して快適さを感じません。全てが普通であり、どんな感情も沸き起こりません。双対は、影のように、つまり全くもって自然でそれゆえに無意味なもののように感じられます。
V. Gulenko(2019) “Psychological Types: Why Are People So Different?”, pp. 318-9
だから目の前にいても、きっとなんとも思いません。
SEIさん…? あぁ、あの普通の人ね。
あまりにも普通なので特に注目もしません。きっと「そんな人もいたな」くらいの印象の薄さです。まさかその人との関係が、ソシオニクスで「もっとも理想的な関係」と言われているとは思いもしないでしょう。
ただしこう「注目に値しない」と考えるのは、双対関係の外向型の側に多いようです。内向型の場合はむしろ「自分には良い人すぎる」と感じ、最初から諦めていると言ったほうが正確です。
ILEさんは、私のことなんか覚えてすらいないだろうなぁ。
こうなるのは多くの場合、生きてる世界が違いすぎるためです。趣味や関心、経歴などがまるで違い、会話のとっかかりすらわからないかもしれません。たとえるなら、悪い印象があるわけじゃないけど特に話したことのないクラスメイト。クラスの中心のキラキラギャルと、寡黙なオタク。
このようにして、双対関係は交わることもなく終わることがほとんどです。それでも運良く距離が縮まり、関係が築かれたとします。しかし、関係が築かれてもなお、双対関係のありがたみには十分には気づけません。双対関係のありがたみに気づくのは、関係が終わってからです。
別れてから気づきます。双対を失う経験は激しいものになります。長いこと喪失感があるかもしれません。
V. Gulenko(2019) “Psychological Types: Why Are People So Different?”, p. 319
「失ってからはじめて気づく」なんて言うことがありますよね。さっきも言ったとおり、双対関係のコミュニケーションはあんまりにも自然で、空気みたいなものです。当たり前のように満ちているから、失うまでその貴重さに気づかないのでしょう。
また鍵をなくした。SEIといた頃は、一度もなくさなかったのに…。
もっと大切にすればよかったと思っても、時すでに遅しです。
双対関係へのアドバイス
双対関係は確かに理想的な関係ではありますが、関係を良いものにする努力は必要です。以下では、双対関係をもっとよくするアドバイスを紹介します。
得意なことは引き受け、苦手なことは任せよう!
1つ目のアドバイスは、適切に責任を分担し、相手に自分のやり方を押し付けないことです。
双対関係では、得意分野が真逆であるおかげで、たいていは自然と責任が分担されていきます。しかし、何らかの事情で歯車が狂うこともあります。
たとえば、稼ぐのが苦手な方が働きに出かけ、家事が苦手な方が専業主ふをやっているような夫婦を想像してみましょう。
うーん…。自分ならもっとうまくお金集めるけどな…。
えぇ…部屋きったな…。自分ならきれいに保てるのに…。
お互い「私ならもっとうまくできるのに!」ともどかしい気持ちでいっぱいになり、ついつい自分のやり方を押し付け、結果ギスギス…。そんな様子が浮かびます。
双対関係でも、責任の分担がうまくいっていなければこんなふうにギスギスしてしまいます。
そういうときは、一度分担自体を見直してみてください。あれこれとイチャモンをつけるくらいなら、いっそのこと相手の仕事を引き受けてしまいましょう。むしろ、その方がお互いにとって良い結果に繋がります。逆に自分がうまくできないときも、相手に相談してみましょう。双対関係は、助け合ってこそうまくいきます。もちろん時々1人になって、自分の時間を作ることも忘れてはいけません。
自分の感情に正直であろう!
2つ目のアドバイスは、自分の感情に正直であることです。
「認知的不協和」という有名な社会心理学の用語がありますね。相手にネガティブな感情を感じているのにもかかわらず関係を続ければ、自分の中に矛盾を抱えた状態になります。そういうとき人は、都合の良すぎる正当化によって自分の矛盾を誤魔化しがちです。
ひどいことばかり言われるけど、信頼されているから(?)
このような都合の良すぎる正当化によって、本当の感情に蓋をしないよう気を付けましょう。双対関係において一番大事なことは、自分に嘘をつかないことです。
いやいや、しんどいよ…。
自分に嘘をついてしまうのは、現実を受け入れるのが怖いからです。だから自分に素直になることは、時に恐ろしい現実と向き合う苦しい作業になります。しかしそこを乗り切れば、おのずと自分のとるべき行動は見えてきます。そして今よりもずっと自分しくいられるようになるはずです。
「双対関係かどうか」より目の前の関係を!
同じように、「双対関係だから」を、自分の気持ちを誤魔化すために使ってはいけません。
私たちはうまくいっているよ、だって双対関係だから(?)
双対関係は「特定の親密な心理的距離と関わりやすさを示唆しているだけ」(Duality – Wikisocion)であって、必ずうまくいくことを約束するものではありません。
それは、人間関係はソシオニクスよりもはるかに複雑だからです。「顔が好きじゃない」「体臭が受け付けない」「大学はMARCH以上がいい」「お酒飲めない人は…」等々、勝手な話ではありますが、性格以外の部分でどうにも合わないと感じることはいくらでもあります。あるいは、いくら双対関係だろうと「有害な相手」だと感じたら関わるべきではありません。
もし2人が他の部分で合わないと感じつつもとにかく関係を築こうとすれば、心理的な快適さとは裏腹に、解決できない衝突が生じるでしょう。
Duality – Wikisocion
「双対関係だから」と思考停止すれば、痛い目を見ること間違いなしです。目の前の関係をちゃんと見つめるようにしましょう。2つ目のアドバイスとも通ずるところですが、「双対関係かどうか」より自分の本当の気持ちのほうが大事です。変だなと思ったら、その違和感を忘れないようにしましょう。日記に書き留めておくのもアリです。過去の気持ちは容易に書き換えられてしまうからです。